1903年、ハーレーダビットソン社設立。 1908年、Vツインエンジン開発。 1929年、フラットヘッドエンジン登場。
そして1936年。衝撃のニューモデル、「ナックルヘッド」エンジンが産声をあげました。
好評をいただいたフラットヘッド編に続き、今回はハーレーエンジンのKING OF VINTAGE! いまでもその造形の美しさ、機能美に魅せられるファンが多い大変貴重な「ナックルヘッド」エンジンに関しまして、お話させていただこうと思います。
ナックルヘッドの登場
当時、ハーレー社は先に発表したフラットヘッドエンジンを主力にモーターサイクルの生産を続けていました。
着実に販売台数を伸ばし、このままでも戦えると創始者のひとりであるウィリアム・S・ハーレーが考えていた一方、時代の流れは次々とハイスピード化へ。
アメリカ国内のライバル社であった「インディアン」や英国社「BSA」がOHV(オーバー・ヘッド・バルブ/後述)式のエンジンを搭載した新型マシンを相次いでリリースした事をきっかけに
ハーレー社も次なるエンジンの開発に着手せざるを得ない状況となりました。
多くのプロトタイプを開発、トライ&エラーを繰り返し、ようやく量産軌道が整ったが1935年。
そしてこの翌年1936年に「ナックルヘッド」エンジンがデビュー。メモリアルイヤーとなったのです。
その後、半年足らずで約1600台が販売されるなど、アメリカ国内で好評を得、1948年までの約11年間作られ続けてきました。
すでに名前からしてカッコいい「ナックルヘッド」エンジン。
この”ナックル”の名前の由来。
エンジンの上部、ロッカーカバーの形状がグーの握りこぶしに似ていたためとか、当初はロッカーアームがむき出しでそれがこぶしに似ていたから、など諸説ありますが、ユニークなうえ、ネーミングセンス抜群ですよね。
ちなみにこの名前、ハーレー本社からの正式名称ではなく、ユーザーの付けたニックネームが広まり定着したエンジン名であるようです。
OHVとは・・・
バルブがサイドにあるサイドバルブエンジンに対して、ピストンの上にバルブがくるシステムをOHV(オーバー・ヘッド・バルブ)と呼んでいます。
仕組みとしては、クランクの回転を利用してカム・シャフトが回り、バルブを開閉する仕組みはサイドバルブと変わりませんが、
OHVの場合はこの卵型のカムがプッシュロッドを押し上げたり下げたりし、その押された分だけバルブが開く。というシステムになりました。
これにより燃料室がよりコンパクトになり、吸気と排気をスムーズに行うことができ、コンプレッション(圧縮)の上昇が可能になったです。
日本ではほぼ見なくなってしまったこのOHVのエンジンですが、実は本国アメリカでは今でもアメ車のV8エンジンに使用されています。また1936年の採用から87年たった現在の最新ハーレーのエンジンにも組み込まれていたりと、まだまだ現役のシステムなんですよ。スゴイですね。
ナックルヘッド各モデル名・製造期間・特徴
リリースされたモデルは大きく分けて下記の4種類。一覧でそれぞれ見ていきましょう。
※圧縮比とは・・・燃焼室(内燃機関)における最大容積(圧縮前)と最小容積(圧縮後)の比率を表す値のこと。圧縮比が高ければ高いほど、排気量と投入燃料量が同じでもピストンを押し下げる圧力が大きくなり、パワフルになります!
- EL
-
- 1936 - 1948
- 1000cc
- 圧縮比6.5
当時はこのモデルをスペシャルスポーツという位置付けで、前後18インチのタイヤを装着。ロッカーカバーの二つのボルトが丸形です。 エアークリーナーカバーなどこの年のみ採用されたパーツが多数あり!! (今となってはスーパーレアパーツ)。ちなみにフレームは3度変更されています。
- E
-
- 1937 - 1938、1941 - 1948(2度製造)
- 1000cc
- 圧縮比7.0
数年間、生産を一旦ストップしたモデル。ストップした理由の詳細はわかっていませんが、'41年にFLモデルのデビューとともに、再生産がスタートし、その後'48年のパンヘッドのデビューまで生産されました。
- FL
-
- 1941 - 1948
- 1200cc
- 圧縮比6.6
前後のホイールが16インチとなり、大陸を走るクルーザーらしいソフトな乗り心地に変更。'47年式FLは、当時の工業デザイナーであるブルックス・スティーブンスによってデザインされ、全体のラインがストレートになり、よりモダンなイメージに仕上がっています。後期型はロッカーカバーのボルトが丸形→六角頭になっています。
- F
-
- 1942 - 1948
- 1200cc
- 圧縮比7.0
正直FLとの違いがわかりません。圧縮比のみ???
ナックルヘッド搭載ハーレーの雑学
ハーレーに限らず、同一車両のパーツがアップグレードや世の中に合わせた仕様に変わるというのは今でもよくある話。
ナックルヘッド時代のハーレーも例外ではなく、約11年の製造期間のうち、さまざまな変換がありました。
数あるなかで個人的にとても面白かった「シフトパターン」の変わりようをご紹介。
※ナックル時代のハーレーは四輪車両のような手でのシフトチェンジシステムでした。
詳細は上のイラストを見ていただきまして、計3回変わっています。
なぜこんなに変える必要があったのか?なぜ数字の配置がこんなにもバラバラだったのか?なにかしらの理由はあったとは思いますが、今回は知る手がかりを見つける事ができませんでした。機会があれば、当時の方々のお話を読んでみたい。
ただ、この変化も今となっては、車両の年代を調べるうえでの貴重な手がかりのひとつになっているので、面白がっているだけではいけませんね。
他にも、ステップ部分が長方形から半月型に変わったり、1年間のみ採用されたタンクのエンブレムがあったり、エンジンが大きくなりすぎて底面を削ったりと、知れば「ほほぅ」と思える雑学がまだまだたくさんあります。
またどこかでご紹介できれば、楽しそうです。
最後に
ハーレーのビンテージフリークの方であれば1度は憧れる「ナックルヘッド」。
本場アメリカでも玉数が激減し、また昨今の世の中の事情もあり、今や積載車両の価格も目が飛び出るくらいに高騰しています。なかなか手を出せる代物ではありません。
冒頭でも言いましたが、その機能に伴った造形は見事のひとこと。あらゆる面で技術が進んだ現代でも生み出すことができない、超絶技巧と呼ぶにふさわしい美しいエンジンであります。ビンテージよりもアンティークという言葉がピッタリくるかもしれません。
叶うならば、ハーレー人生のどこかで乗る機会に巡り合いたいものです。
ハーレーはやはり奥が深い!!乗り物ですね。