1969年公開の映画「イージーライダー」でピーター・フォンダとデニス・ポッパーが乗っていたハーレー。ハーレーのことは知らなくてもこの2台なら知っている。という方がいるほど、あまりにも有名で強烈な車両です。
また1966年公開の映画「ワイルド・エンジェル」でも同じく主演のピーター・フォンダがハーレーに乗っていたのですが、これらの車両のとある共通点をご存じでしょうか。
それはどちらも搭載しているエンジンが「パンヘッド」と呼ばれるエンジンであったこと。
両作品とも1960年代アメリカの「カウンターカルチャー」と呼ばれる時代を色濃く描いたものとなっており、その思想のアイコンとして選ばれたのが、ハーレーダビットソン社の「パンヘッド」エンジンだったのかもしれません。
今回はそんな「パンヘッド」エンジンについてまとめてみました。ぜひとも御一読いただければ幸いです。開発について
ナックルヘッドに次ぐ、ハーレーダビットソン社の第二世代のOHVエンジンとして1948年~1965年までの17年間製造されたパンヘッド。
その大きな特色としてまずは使用された素材があげられます。
ナックルヘッドまではシリンダー・シリンダーヘッド・ピストン・ピストンリングまですべてが鋳鉄(ちゅうてつ※)製で作られていました。
※鋳鉄・・・20%以上の炭素を含む鉄合金
同じ素材同士であれば、熱膨張でも均一に変化し、バランスの取れたパフォーマンスを発揮するのではないか。そう考えられていたのです。
ですが実際は鉄製であるがゆえ超重量級に。さらに一度熱を持つと熱さが持続し、シリンダーヘッドの放熱が間に合わなくなり、場合によってはオーバーヒートを引き起こしていました。
その問題を解消する素材として、当時その汎用性の高さから注目されていたのが“アルミ合金”だったのですが、アルミ関連の実用が後手であった1940年代のアメリカ。
その一方で早くからアルミの研究開発に着手し、軍のサポートを行うことで技術発展に成功。BMWやライカ、ロケットなど、最新技術が取り込まれた産業物を次々生み出し、世界をリードする国がありました。
そう「ドイツ」です。
第二次世界大戦後、アルミをはじめとした産業テクノロジーやシステムをドイツから吸収し、ハーレー社が設計・開発した二輪エンジンこそ「パンヘッド」なのです。
形状と名称
ナックルヘッドまでのロッカーカバーとは変わり、アルミの加工のしやすさから生まれた曲線が美しいビジュアルのパンヘッド。
「パンヘッド」の名前の由来は、このパン(=鍋)をひっくり返したような形状のロッカーカバーから名づけられています。
一見、シンプル極まったロッカーカバーですが、イラストのように17年の間に微妙に形や仕様が変わっており、年代を識別するひとつの指標になっています。
エンジンのレベルアップ
ナックルヘッドからの変更は、素材や見た目だけではありません。
技術の進歩によるパーツの排除・細分化で、エンジンとしての地位をひとつ上のレベルに持ち上げました。
まずナックルまでは、オイルが通る経路や配管である“オイルライン”(人間でいう血管のようなもの)がエンジンの外のパイプラインを通っていたのを、パンヘッドではエンジン内つまりシリンダー内を貫通させつつ巡回させるシステムに移行させました。
他にも、バルブの開け閉めを行うテコ棒の”ロッカーアーム”が、ナックルまではシリンダーとロッカーにより押さえ込まれていたのに対し、パンヘッドではシリンダー部分から独立したパーツとして扱われるようになり、カバーをはずしただけで、ロッカーアームや周辺のパーツメンテナンスを容易にしたのです。
パンヘッド各モデル・製造期間と進化
パンヘッドエンジンが搭載されていた時期のハーレー社は、歴史上一番の転換期であったと言われています。
その大きな理由のひとつが、現代まで受け継がれる革新的なシステムの開発。
ここではパンヘッドの3モデルと進化した4タイプの詳細を見ていきましょう。
<3モデル>
ナックルから引き継がれた2モデル(ELとFL)と追加された新たな1モデル(FLH)がラインナップ。
・EL (1948~1951 1000cc 圧縮比7.0)
・FL (1948~1965 1200cc 圧縮比7.0~7.25)
・FLH (1955~1965 1200cc 圧縮比8.0) ※FLHのHはHigh compressionの頭文字から
第二次世界大戦後のアメリカは飛躍的に産業技術を進化させていきました。
そのノウハウは都度ハーレーにも落とし込まれ、下記4タイプが誕生したのです。
- ヨンパチ
-
- 1948
パンヘッドデビューの年。ナックルから引き継がれた「スプリンガーフォーク」に「リジットフレーム」を組み合わた車両。1948年の1年間だけ製造され、日本では製造年から”ヨンパチ”の愛称で広まっています。希少性もあり人気のモデルです。
- ハイドラグライド
- 1949~
スプリンガ―フォークに変わり、「グライドフォーク」と「リジットフレーム」シャーシーがセットされたモデル。名前の”ハイドラ”はフロントに採用された油圧式テレスコピックフォークから来た呼び名。ちなみにタンクロゴやメーターデザインは、ナックルのストレートラインのシルエットで世間を魅了したブルックス・スティーブンス氏が担当。
- デュオグライド
- 1958~
パンヘッドで一番の進化を見せたモデル。ハイドラグライドからのグライドフォークを引き継ぎ、フレームもリアサスペンション搭載の4速へ変換。またシリンダーヘッドのフィンの大型化により、エンジンの冷却効果がアップした車両でもあります。名前の”デュオ”はラテン語で2を意味する単語から。フロントフォークとリアサスのやわらかシステムの事です。
- エレクトラグライド
- 1965
ハーレーとしては初となるセルモーターを搭載し、始動がキックから電気式へ。スイッチを押すだけで始動できる利便性が支持され、ハーレーの生産台数倍増への起爆剤となったモデル。名前の”エレクトラ”は始動システムの”電化”から。パンヘッド最後のモデルです。
最後に
今回のパンヘッドの特集はいかがでしたでしょうか?
私の場合、ありがたいことにミーティングやツーリングの際、純正に近い車両や現代テイストのチョッパーのパンヘッドとよく一緒になります。
その時に感じるのは、重厚なトルクとさまざまな金属が一緒に動いている「エンジン音」こそが、パンヘッドの最大の魅力なのではないかということ。
静かでクリーンなエンジンが支持される世の中ですが、ノスタルジックな見た目とそこから発せられるには不似合いな音が同居した存在に、自分はとてつもない興味と愛着が湧いてしまうのです。
みなさんはどう思いますか?
それでは、今回はこの辺りで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。