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ハーレーのエンジンの歴史~ツインカム編~

ハーレー ツインカム

OHV・ビッグツインエンジンの5代目として1999年に発売されたエンジン「ツインカム」

エボリューションを経て、会社の立て直しに成功したハーレーダビットソン社が、アメリカの交通規制の変更により生み出したエンジン。伝統の空冷OHV45度はそのままに、ワンカムシャフトを捨て、技術革新とともに変わっていった、ハーレーのエンジンの中でも異彩を放つ存在でもあります。

誕生の経緯

ハーレー ツインカム

1990年代にアメリカ国内の最高速度の規制がそれまでの55mph(約90km/h)から65~75mph(100~120km/h)へ引きあがったのを機に、ハーレーダビットソン社は新たなエンジンの開発に着手。

実際のところ、排気量1340ccのエボリューションエンジンでも規制は十分クリアしていたのですが、多くの荷物を載せ、1日何百キロ走るアメリカンハーレーライダーからすると、物足りなさを感じられていたのも否めない事実だったようです。

そして迎えた1999年。アメリカの広大な土地やハイウェイでも、常に力強く、ストレスなく走りきることができるエンジン、1450ccのエンジン「ツインカム88」が誕生しました。

名前の由来

デビュー当時の正式名称「ツインカム88」。

今までのOHVシステムはそのままに、1つだったカムが2つ(ツイン)になったことが名前の由来。

“88”は排気量を表す88キュービックインチ(=1450cc)から取られました。

ロッカーボックスの中央が外に膨らんで、太ったように見える形状から「ファットヘッド」というニックネームもありましたが、クールな呼び名ではないためか、あまり受け入れられず、ツインカムがそのまま通称として浸透することに。

ハーレー ツインカム

エンジンの大革命

ハーレー ツインカム

ツインカムはハーレー社の革命的進化を遂げたエンジンとしても有名です。

その主な内容がこちらの5つ。

・カムシャフトを2つにすることでパワーアップに成功

・ボア(シリンダーの内径)を約6.5mm拡大、ストローク約6.4mm短縮のショートストローク化

・高回転型のエンジンにすることで、上限回転数エボ時代の5000回転→5500回転へと上昇。最高速度に引き上げに成功

・シリンダーフィンの表面積を増やすことで冷却効率を約50%アップ

・排気バルブの小径化で混合気の完全燃焼を図る機能と細かい点火時期制御で、排気ガス規制にも対応


この中でも特筆すべきは、カムシャフトを2つにした事ではないでしょうか。

カムを2つにしたわけ

ハーレー ツインカム

名前にもなっている、大きな特徴である2つのカムシャフト。

ビッグツインエンジンが誕生して約100年。それまで続いたワンカムシャフトの伝統を壊してまで、なぜ2つにしなくてはならなかったのか。

先の通り、アメリカ国内の速度規制引き上げにより求められたのは、さらなるハイスピード化。

従来のワンカム方式のままパワーアップを図ろうとすると、ベアリングの規格変更の影響で発生するクランクケースの巨大化や、ストロークの延長によりエンジン全高が増してしまうなど、ハーレーの、さらにいえば、乗り物に搭載するエンジンとしは不適当なサイズ感となってしまいます。

ハーレー ツインカム

そこで解決策として考えられたのが、フライホイールの軽量化。

さらに高回転でも正確にバルブの開閉ができるよう、“前後のシリンダーごとにカムシャフトを独立させ、それぞれに振り分け、チェーンで駆動させる”という、2カム方式=ツインカムだったのです。

前後の各シリンダーにそれぞれ、ひとつずつのカムが付くことで、プッシュロッドの動きが飛躍的に向上。より効率的なピストン運動が実現されたのです。

※ちなみに後にも先にもハーレーエンジンのなかで、カムシャフト2個を採用しているのはこの「ツインカム」エンジンだけ。

ツインカム88B

ツインカム88エンジン登場の翌2000年。ハーレーダビットソン社はソフテイル専用エンジン「ツインカム88B」を開発。

ツインカムはエボに比べてパワーアップに成功した反面、高回転型になったことにより、今まで以上に大きな振動をハーレーの車体自体に伝えてしまうという弊害がありました。 特に、ラバーマウントフレームではないソフテイルモデルはフレームにエンジンがダイレクトに搭載されているため、直接的な振動は深刻なことに。

ハーレー ツインカム

FXSTD Softail Deuce(ソフテイル・デュース)


そこでハーレー社は、“エンジンバランサー”を考案。

エンジン内部に対する対策であり、2本のバランサーをクランクシャフトの2倍の速さでお互いに逆回転させることで、振動を打ち消しました。振動を打ち消すといっても、低速で加速する時や、アイドリング時など、ハーレーらしい鼓動感を味わことができる画期的なシステムだったのです。

このカウンターバランサーを搭載したエンジンが「ツインカム88B」。

「B」とはつまりバランサーの意味合いになります。

歴代で最もバリエーションが多いエンジン

  

ツインカムはハーレーエンジンの中で、最も多くのバリエーションがありました。
しかもただのマイナーチェンジではなく、バリエーション毎に劇的な進化をとげています。

ツインカム

●ツインカム88/排気量1449cc(1999~2006) 

初代ツインカム。15年続いたエボリューションの代わり満を持してデビューしたエンジン。1340ccから1450ccのパワーアップを実現。

 【搭載モデル】

◎1999~2006 ダイナファミリー

◎2000~2006 ソフテイルファミリー

◎1999~2006 ツーリングファミリー

ツインカム

●ツインカム96/排気量1584cc(2007~2016) 

88キュービックインチから96キュービックインチへと排気量も拡大したほか、燃料供給方式をキャブレターから全モデルインジェクションに統一。モデル名に“I”の文字が無くなる。ミッションも5速から6速にグレードアップ。

 【搭載モデル】

◎2007~2016 ダイナファミリー

◎2007~2015 ソフテイルファミリー

◎2007~2011 ツーリングファミリー

ツインカム

●ツインカム103/排気量1689cc(2010~2017)

2014年にはツーリングファミリーの上位モデルで水冷機能を備えたツインクールドエンジンも登場。ロアフェアリング内にシリンダーヘッドを冷却するラジエーターを装備した革新的なエンジン。

 【搭載モデル】

◎2017 ダイナファミリー

◎2016~2017 ソフテイルファミリー

◎2010~2016 ツーリングファミリー

ツインカム

●ツインカム110/排気量1689cc(2011~2017)

SシリーズやCVOなど、特別なモデルにのみ搭載されたツインカム最大排気量のエンジン。吸気効率に優れたエアクリーナーを採用しているため、シリンダーヘッド部分にキュービックインチを示すプレートが備えられている。

 【搭載モデル】

◎2011~2017 CVOファミリー

◎2016~2017 Sシリーズ

2017年まで搭載される

4度のバージョンアップの中でも、空冷OHV45度というブレない姿勢を貫き通す一方で、世間のニーズを的確に捉え、最新の技術を投入し変化し続けてきたハーレーダビットソン社。

世界のモーターサイクル業界をけん引するプライドとパワーを改めて感じられたように思えます。


その後、2017年にツインカムは引退。引き継ぐのはミルウォーキーエイトエンジン。現段階でハーレーダビットソン社の最新エンジンとなります。

ツインカムエンジン以上にどのような技術革新が見られるのか。楽しみです。

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